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「LGBTは種の保存に背く」「道徳的に認められない」自民党会合での発言に批判。当事者が語る憤り

「LGBT理解増進法」をめぐる自民党の会合で、出席した議員が「道徳的にLGBTは認められない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」と発言したと報じられ、批判が高まっている。

5月20日に開かれた「LGBT理解増進法」をめぐる自民党の会合で、出席した議員が「道徳的にLGBTは認められない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」と発言したと報じられ、批判が高まっている。

発言した議員に撤回や謝罪を求める署名活動も始まり、すでに4万7千筆を超える賛同が集まっている(5月21日午後4時半現在)。

署名の呼びかけ人は「国会議員が事実に基づかない偏見や差別的な意識から発言をすることは、当事者の命に直結する問題」だと言い、自民党としての厳正な対処も求めている。

これまでの経緯

発端になったのは、自民党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」(稲田朋美委員長)が主導し、今国会での成立を目指している「LGBT理解増進法案」。

LGBTQに対する「国民の理解の増進に関する施策」について定めるものだが、差別の禁止が明言されていないことなどから、実効性に乏しく、同性婚やパートナーシップ制度の導入を阻害する可能性もあるなどと、懸念の声があがっていた

その後、5月14日に与野党での協議が行われ、法案の「目的」と「基本理念」に「差別は許されない」という言葉を追加することで、合意案がまとまった。

これを受けて、5月20日に開かれた自民党の会合で、改めて法案の審査が行われた。

TBS毎日新聞によると、参加した議員からは反対意見が相次ぎ、「道徳的にLGBTは認められない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」との発言もあったという。

また、山谷えり子・参議院議員は会合後、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダー女性を念頭に、「アメリカなどの国では学校のトイレで問題になったり、女子の競技に男性の身体で『心は女性だから』と言って参加してメダルを獲ったり、そういう不条理なこともあるので、慎重に。社会運動化・政治運動化されると、いろんな副作用もあるんじゃないでしょうか」と、報道陣に対して語った。

「性的マイノリティの存在を否定する発言」

会合での発言が報じられると、Twitterでは「お前たちはまともに生きる資格はないという直球の差別」「だから差別を禁止する法律が必要」などと批判の声が上がった。

LGBT法連合会は「当事者ばかりでなくその家族や友人など関係する人びとをも傷つけ、その存在を否定する、到底看過することのできない発言であり、極めて遺憾であると言わざるを得ない」とする声明を発表した

「道徳的にLGBTは認められない」「LGBTは生物学に背くもの」というのは、性的マイノリティへの「お前たちにはマトモに生きる資格はない」「お前たちは2等市民だ」という直球の差別。その差別を正当化するための言葉が、彼らの言う「理解増進」ということか。 https://t.co/NibeI4ERvE

Twitter: @tagagen

署名呼びかけ人の一人である「一般社団法人fair」代表理事の松岡宗嗣さんも、「種の保存に背くとか、道徳的に認められないという言葉は、性的マイノリティの存在自体を否定する発言」だと、強く批判する。

「実際に、いじめや差別で死にたいと思うほど追い詰められている当事者がいる中で、『あなたは道徳的に認められない存在だ』とか『生物学上、LGBTQは社会に背く存在なんだ』という、明らかに憶測や偏見に基づいた差別的なメッセージを発することが、どれだけ当事者を苦しめるかを自覚してほしいと思います」

【拡散希望】「LGBTは種の保存に背く」「道徳的にLGBTは認められない」など、自民党議員によるあまりに酷い差別発言が繰り返されています。発言の撤回と謝罪を求める署名を開始しました。ぜひご協力をよろしくお願いします。 #自民党LGBT差別発言の撤回謝罪を求めます https://t.co/upY6VLdWN2

Twitter: @ssimtok

松岡さんによると、性的マイノリティに対する差別を禁止する法律は、世界約80カ国で整備されている。

一方、日本ではトランスジェンダーであることを理由に採用面接を打ち切られたり、「オカマみたいなやつには営業を任せられない」と言われて、異動させられ減給したりするケースなど、性の在り方によって不当な差別を受けた事例が多く存在する

自身もゲイである松岡さんは、性的マイノリティに対する差別を禁止する法律の必要性を訴え、自民党が示した「LGBT理解増進法案」の問題点について指摘をしてきた。

国会議員はこの一人一人の現実が見えているのか。何のために、誰のために法律をつくるのか。『かわいそうなマイノリティのことをわかってあげましょう』ではなく、求めているのは平等。今国会で、性的指向や性自認に関する差別的取り扱いを禁止する、実効性のある法律を求めます」

Twitter: @ssimtok

「そもそも私たちは、実際に性的指向や性自認による差別の被害を受けた当事者が法的に守られるように、差別的な取り扱いを禁止する規定を求めてきました」

「自民党が提案した法案にはそれが反映されておらず、不十分だったところ、基本理念や目的に『差別は許されない』という言葉が入ったことで多少は前進しました。しかし、それでも法的効果はあまりないのでは、と思っています」

「ただ、自民党の議員がこの『差別は許されない』という文言にも反対しているのは、もはや差別を温存したいと言っているとしか思えません」

「国会議員の発言は社会に対する影響力もありますし、当事者の命を左右する政策や法律に直結する問題です。それなのに、こうした差別的な認識に基づいて法律が作られようとしていることに、強い憤りを覚えています」

山谷議員のトランスジェンダーに関わる発言についても「トランス女性の実態を無視し、尊厳を貶める発言」だと指摘する。

相次ぐ自民党議員による差別発言

自民党では過去にも、議員によるLGBTQに対する差別的な発言などが相次いできた。

2018年には、杉田水脈議員が月刊誌「新潮45」に寄稿した記事の中で、「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と主張した。

2020年9月には、足立区の白石正輝区議が「(同性愛者だって)法律に守られているんじゃないかなんて話になったんでは足立区は滅んでしまう」と述べ、のちに批判を受けて発言を謝罪・撤回した。

事実に基づかない差別的な発言が繰り返されていることに、松岡さんはこう語る。

「適切な知識を持つ必要があるというのは大前提だと思いますが、その上で基本的人権というものを理解していないと指摘せざるを得ません。どんなに考え方の違いがあっても、他者を貶める発言は許されないという認識を、果たして議員たちは持っているのでしょうか」

3年前の杉田議員の発言では、自民党が「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現がある」と認め、杉田水脈議員に「指導」をしたと発表した。

しかし、今回また杉田水脈議員の発言に通じる「優生思想に基づく差別発言」が出たことを受け、「自民党は何も学んでいないと実感した」と松岡さんは語る。

政治の役割とは…

松岡さん自身も、性的マイノリティの当事者である友人を自死で亡くしている。新型コロナウイルスによる影響で多くの人が孤立し、様々な困難に直面するなか、複数の当事者が自ら命を絶った、という知らせを受けた。

「いま、性的マイノリティをはじめ、社会の端に追いやられている人は、新型コロナの影響でよりつらい状況に置かれています。政治の役割は、取りこぼされた人や苦しい人を守ることではないのでしょうか」

「権力を持つ立場の人が自らそういう人々をさらに排除したり、命を脅かしたりする発言は許されないものだなと思っています」